人材難・アンチブラック企業時代の就業規則
『人材難・アンチブラック企業対応の就業規則』
(このコンテンツは、2015年1月15日時点の情報に基づいて作成しております。)山田社労士事務所
当コンテンツは、経営者様、経営幹部様を読み手として想定し、現下の経営環境に即した、「就業規則が、どうあるべきなのか」について書いています。
<「就業規則」を重視している理由>
①就業規則に「記載すべき事項(労働条件)」は報酬、人材育成、配置、昇進・昇格、労働時間・余暇等の人事制度の根幹を成し、働く上で従業員にとって、大切な処遇であること
②就業規則に記載することを通じて、公的な文書化として体系化された制度となり、企業側として、従業員に対してルールや規律を課すだけでなく、貢献に対して誘因を提供していくことが、明確となり、従業員の納得性が高まること。
③就業規則は、従業員がいつでも閲覧できる(周知)されていること
④後述の「防衛型就業規則」は、従業員を管理・統制すべき対象としてしか、多くのケースで捉えておらず、従業員も就業規則の記載内容に対して、コミットしていないケースが多いこと。就業規則が単なる「ルールブック化」していること
⑤報酬制度、表彰制度、昇進制度、人材育成等の誘因の核となる、就業規則の定めが、未整備の企業が中小企業では非常に多いこと
⑥行過ぎた「企業防衛型就業規則」が、「ブラック企業」と評されるリスクを助長していること
⑦募集時に明示すべき労働条件は、就業規則と雇用契約書の明示すべき労働条件と重複しており、就業規則を整備することは、同時に採用改善にも繋がること
⑧後述の「ブラック企業」の社会的な定義は、ほとんどのものが就業規則や社内規程の記載事項として、関係がある項目であること
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【リーマン・ショック後に企業防衛型の就業規則が重宝した】
多くの企業が導入している「企業防衛型の就業規則」は、現下の経営環境に対応できていません。
(現下の経営環境とは、「人材難」と「アンチ・ブラック企業」の2点にフォーカス)
理由として、企業防衛型の就業規則は、「リーマンショック」の直後に作成(改定)されたものが多い、という時代的な背景があります。
当時の有効求人倍率は2009年7月期には全国平均で0.4倍程度、(現在の2014年11月期1.1倍)であり、現下の人材不足とは、全く別次元の経営環境でした。
当時、多くの企業で、「人員過剰」が深刻な問題となり、「雇用調整」が急務であったことから、強固な労働者保護法に対応できる「企業防衛型の就業規則」が要求されていました。
これらの「企業防衛型の就業規則」は、次のような機能を果たすことを、目的として整備された、「会社と経営者を守る就業規則」のことです。
①弾力的な労働条件の変更
②整理解雇の実施
③雇用契約の解消(主にローパフォーマー対策)を進める
④基本給の昇給停止、諸手当の切り下げ(特に家族手当、住宅手当等の非仕事給を廃止した傾向)
⑤変動給の抑制(主に残業代の抑制)
⑥定昇、一時金(ボーナス)の凍結もしくは縮小
⑦訴訟対策、労基署対策、個別労使交渉、集団労使交渉を有利に進める
【雇用情勢が急速に改善 超人材難時代+ブラック企業の社会問題化】
周知の通り、雇用情勢は、2年ほど前より急速に改善し始め、現下では、多くの業種で「人材難」に直面しています。
人材難が深刻化すると、「機会損失」に繋がるだけでなく、新規の採用と人材育成が間に合わなければ、既存の従業員の労働負荷が高まり、離職者が増え、更なる人材不足に陥る可能性が高まります。
時を同じくして、「※ブラック企業」が社会問題化し、従業員自身が労働条件(処遇)改善への関心が、高まり、ブラック企業回避の転職活動や、より良い処遇や職場環境を求める、転職活動が活発化します。
行過ぎた「企業防衛型の就業規則」の存在そのものが、「ブラック企業」と評されるリスクを、内在している、そこのことも、もはや否定ができなくなりつつあります。
【ブラック企業の定義】
社会問題として取り上げられている「ブラック企業」とは、当事務所のリサーチによると、概ね次のような定義がされています。
国(厚生労働省)は、人材を育てない企業や若年者の定着率の低い企業、超時間労働や、年次有給休暇の消化率の低い企業等を、ブラック企業としています。
<当事務所リサーチのブラック企業の定義と分類>
Ⅰ 企業全体を通じたコンプライアンス意識と体制
分野を問わず「コンプライアンス経営」を重視している企業体質か?
特に労基法違反のうち、残業未払い、超時間労働等
Ⅱ 労働条件(主に労働時間、余暇の関係と処遇面)
- 賃金水準が不当に低い(昇給がない)
- 労働時間が恒常的に長い
- 人材育成をおこわない
- 休日が取れない、有給がとれない
- 育児休業がとれない
- 昇進基準等が不明瞭
- 劣悪な労働環境(作業環境・設備投資など)
Ⅲ 企業風土(組織風土)の問題
- 管理職のリーダーシップ能力やマインドが低い
- ハラスメントが生じている(セクハラ、パワハラ)
- 職場のいじめ等が生じている
- 組織内のコミュニケーションが活発でない
「ブラック企業」とレッテルを貼られてしまうと、その評判がメディアやインターネット等を通じて、瞬時に拡散、そして、求職者と、そこで働く従業員のマインドにネガティブな影響を与えます。
また最近では、某職業紹介事業者が運営する、転職情報サイト等で、従業員や元従業員がリアルな、労働条件や社風を書き込めるサイトも登場しています。
もともと情報の少ない中小企業では、このような風評が大きく募集結果に影響します。
来年度には、国も本格的にブラック企業対策に乗り出す事が予想される事から、これを逆にチャンスと、捉え、この時期に就業規則を通じて、処遇と職場環境を見直し、自社が、「ホワイト企業」であることを、内外にPRすることも対応策としては有効かと思われます。
【行き過ぎたオペレーション効率の追求】
企業は当然のこと、利益を上げなければ雇用も維持できず、処遇を提供することもできません。
当然に、継続的なオペレーション効率の改善を通じて、コストを下げることは大切な事です。
ところが、オペレーション効率を追求しすぎた余り、某大手外食チェーン店のように過労死やメンタル不調者を生じてしまえば、直ぐにレピュテーションリスクに晒されることになり、追い打ちをかけるように、求職者が激減し、既存の従業員の退職も誘発され、負の連鎖が生じてしまいます。
【経営者の発言にも注意】
経営者(経営陣を含む)と従業員の意識には格差があります。立場も異なります。
この点をあらためて、認識しておく必要があるかと考えます。
某美容サロン最大手の経営者の従業員に対する発言がインターネットと報道を通じて、瞬時に拡散し、一気にブラック企業のレッテルを貼られた事件は記憶に新しいところです。
トイレにも行けない人員配置やオペレーションにも、問題もありましたが一番、衝撃的なものは、経営者の脅迫と取られても仕方のない発言でした。
「法律通りにやったら、サービス業は立ちゆかない」趣旨の発言。
意図は推して図ることができますが、少なくとも従業員には理解しえないものであることを、経営者は意識的に把握しておく必要があろうと思われます。
そうでないと、リュピテーションリスクに直面してしまい企業ブランドの低下にも繋がりかねません。
【採用難・離職率が高い状態は、企業経営に新たな「リスクとコスト」を生む】
採用難に陥ると、次のような企業経営にとってマイナスな状況に陥ります。
- 機会損失
- リュピテーションリスクの発生による企業ブランドの低下による様々な影響
- 採用コスト増
- 人材育成コスト増
- 戦力たる従業員の流出による競争力低下
処遇を見直しても、短期で人材が獲得でき、離職率が下がれば、結果として、採用コストが下がるので、トータルのコストが下がる可能性も十分にあります。
経営者はこの見極めを、経営判断として要求されています。
【処遇改善項目をベンチマークする】
- 平均給与水準
- 労働分配率
- 平均昇給額
- 生涯年収
- 離職率
- 平均勤続年数
- 女性の管理職の割合
- 有給消化率
- 年間休日日数
- 年間労働時間
- 研修に要した時間 等
同業他社と比較して、自社の労働条件(処遇)が優れていると評価され、求職者の心に響く、数字をベンチマークし、実現できるような制度を就業規則に制定します。
【企業防衛型就業規則を、現下の経営環境に適したものに進化させる】
このような状況から、ドラスティックに「就業規則」を進化させる必要があると考えます。
その理由としては、企業防衛型就業規則は、「リスク回避」という点では優れているものの、従業員を管理・統制する主体としか捉えておらず、従業員満足や組織活性という視点が、ほとんどの企業の就業規則で、欠如しており、人材不足の時代に馴染まないからです。
少なくとも、そのような就業規則では従業員に対して帰属意識を高めたり、定着を促したり、組織活性に結びつける効果は期待できません。
新しい就業規則では、従業員を管理・統制するだけでなく満足させたり、成長させたり、従業員が成果をあげやすくする仕組みを重視します。
その結果として企業業績が上がり、経営ビジョンの実現を達成できることを志向します。
また、業界内の賃金水準や処遇制度を比較検討して他社よりも自社で働くが、「価値にあること」、であると説明できる就業規則を志向します。
処遇は報酬的な処遇に限らず、人材育成、職務拡大、抜擢人事、提案機会の付与、時短勤務等、多面的に、自社に所属する事の価値を創出します。
<企業防衛型就業規則と新しい就業規則の比較>
Ⅰの規則の優れた点を残し、Ⅱの視点を追加します。
誤解が生じないように、「進化」という表現を用いているのは、現下のように雇用情勢が変化しても、健全な企業成長のためには、企業防衛という視点は、不変であり必要であると、考えています。
一例を挙げれば、「バイト・テロ」と呼ばれるようになった一連の従業員の問題行動により生じた、企業側の損失。予防第一で、従業員教育」としての問題と捉えるべき点もありますが、企業としても、想定外の事態が生じてしまった時には、就業規則に図り厳正な処分ができることも引続き大切です。
また、ローパフォーマーが自然に退職する仕組みは、強固なまでの労働者保護法の下では、引続き必要な視点です。
【まとめ】
人材難・アンチブラック企業時代の就業規則に重要な視点は、『従業員満足』という視点です。
人材獲得競争とも言える現下の状況では限られたパイの中で、優秀な人材を奪い合う状況が、続いています。競合に比較して自社で働く事の価値を、就業規則(=人事制度)を通じて、明確にしていくことで、従業員の流出を防ぐと同時に、処遇を今一度、見直すことで、アンチ・ブラックへの対応としても有効となり得ると思います。
【就業規則のご用命は当事務所まで】
当事務所は、「就業規則を作成すること」をサービスのゴールとしていません。
策定を通じて、クライアント企業の経営課題に対して、経営者様と共に向き合い、本当に課題が解決に向かい、企業ビジョン達成の打手として機能しているのか?
継続的な改善のお手伝いをおこなっています。
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【末筆】
本コンテンツをお読みになって頂いた方に、少しでも参考となれば幸いです。
山田社労士事務所