平成27年 派遣法改正の実務対応

平成27年 派遣法改正の実務対応の解説 

作成日:平成27年11月27日 山田社労士事務所
(当事務所の許可なく、転載、複製、流布等を禁じます)


9月30日より施行されている改正派遣法のポイントを実務に即して解説しています。読み手を当事務所の顧問先企業に多い、中堅・中小企業の派遣元事業主を想定し、数多くの派遣元事業主の支援をおこなっている当事務所ならではの、実務に即した解説をおこなっています。

法令基準等については、平成27年11月末時点での情報をもとに作成しておりますので、最新の情報にはご注意ください。

当事務所では改正派遣法施行前より、数多くの一般労働者派遣(一般派遣)、特定労働者派遣(特定派遣)を問わず派遣事業を営む企業を支援してきました。なかでも当事務所の顧問先企業には、中小の一般派遣事業主と、システム開発業等に多い特定派遣事業主の顧問先企業が数多く、今回の改正派遣法については、今後の事業運営に影響が大きい改正事項となっています。また一般派遣事業を営む派遣元事業主でも、後述の「キャリア形成支援」と「派遣制限期間」への対応が不十分であるケースも多いと感じています。

<当事務所の改正派遣法の支援スキーム>

当事務所では、「①コンプライアンス体制の確立」、「②スムーズな実務支援」、「③クライアントの付加価値向上」を達成すべく派遣元事業主に適した顧問契約サービスを提供しています。

まずは、「①のコンプライアンス体制の確立」をおこなうためにも、本稿をご一読頂き、派遣法改正の全体像をご理解頂ければと思います。

<当事務所の派遣元事業主の支援体制>

派遣法を含む労働法の対応と、社会保険各法のコンプライアンス対応、新規許可・届出、定期報告等の法令、行政対応はもとより、派遣事業の事業計画、運営規程の整備、教育訓練計画の策定、キャリアコンサルティング等の全体的な派遣事業の支援をおこなっています。派遣法の対応を万全に期すならば当事務所に是非ともご相談ください。

<索引>

全体を10分程度でお読み頂ける内容となっています。

1.改正点の概要
2.改正事項の解説

①特定派遣の廃止と経過措置
②キャリア形成支援措置
③法定26業種の廃止と派遣制限期間
④雇用安定措置の実施
⑤厚労省の派遣法のパンフレットのダウンロードページ
⑥当事務所への御相談

[1.改正労働者派遣法(改正派遣法)の概要]

平成27年9月30日より改正派遣法が施行されています。主に次の①~④の改正がポイントとなります。

①特定労働者派遣(特定派遣)の廃止と経過措置
②一般労働者派遣(一般派遣)の一本化と許可基準
③派遣労働者のキャリア形成支援(キャリアアップ支援)の義務化
④26業種の廃止と派遣制限期間

一般派遣の許可を有している派遣元事業主であれば、③と④の対応がメインとなります。
「③・④ともに改正法の内容が良くわからない」という声を、派遣元事業主から聴く機会が実は多くあります。
後ほど簡単に解説をおこなっています。

現在、特定労働者派遣(特定派遣)をおこなっている派遣元事業主であれば、平成30年9月29日までの間は、新たに許可を得ることなく、経過措置としての「特定派遣」を引き続き、おこなう事が可能です。

ただし、それ以後も派遣事業を行うためには、期間内に一般派遣に移行する必要があります。また注意点として、③、④は経過措置の特定派遣であっても、実施する義務がありますのでご注意ください。

本コンテンツで、一般労働者派遣(一般派遣)の許可基準を理解した上で、移行時期を決めておき、それまでの間は、特定派遣で事業運営をおこない、③と④の実務対応をおこなう事となります。

<資産要件>

一般派遣の資産要件を、平成30年9月29日までの間に満たす事ができる時期を想定し、事業運営をおこなう事と、もし満たす事が難しい場合には、適法な業務請負又は業務委託への移行での対応が可能か否かを、早期に検討していくことが、実務上は必要です。

<①特定労働者派遣(特定派遣)の廃止と経過措置>

特定派遣が廃止され、一般派遣に一本化されたことに伴い、移行期間中の経過措置が設けられました。
平成30年9月29日までの間は、新たに許可を得ることなく、引き続き特定派遣をおこなう事が可能です。
その上で、以下のような小規模事業者に対する資産要件基準の緩和がありました。(※説明の簡略化のため、派遣事業をおこなう事業所は1か所のみとします)

「基準資産額」とは、「総資産額-負債」のことです。

貸借対象表(B/S)の「純資産額」とほぼ同義です。(※実際には定義が異なるのでご注意ください)
金融機関等からの借入等で資金調達をおこなうと、負債が増加してしまうので、基準資産額が減少してしまいますので、基準資産額を満たしていない場合には、一定期間をかけて、「売上」や「営業外収入」等の自己金融で純資産を増やしていくか、出資を追加でおこなう事が必要となります。なお、申請時には、直近の貸借対照表(B/S)を申請時には添付することとなります。(新設法人で一期も決算を迎えていない場合には設立時B/Sで通常は判断します)

(ア)常時使用する派遣労働者が10名超の場合
基準資産額2000万円以上かつ現預金1500万円以上(従来通りの原則の基準)

(イ)常時使用する派遣労働者が10名以下の場合
基準資産額1000万円以上かつ現預金800万円以上

(ウ)基準資産額500万円以上かつ現預金400万円以上
上記の要件緩和は、平成30年9月29日までとなっています。

ポイントは常時使用する「派遣労働者数」であり、「全労働者ではない」点です。この点を良く誤解されている事業主の方がおりますのでご注意ください。

<事業所の広さの要件 (従来通り)>

一般派遣の許可に必要とされる事務所は約20平米以上が必要です。(従前から変更はありません)

一般派遣の許可申請では、必ず各都道府県労働局の実地調査がおこなわれ、派遣事業をおこなう事業所の確認がおこなわれます。事前に見取り図と賃貸オフィスの場合には賃貸借契約書上の広さ、登記上の平米数を確認することが事前準備として必要です。

※他の企業とのオフィスシェアや転貸借の場合には、追加書類が必要となったり、許可が難航するケースが多いため事前にご相談ください。

<その他の要件>

ポイントとしては次のような要件が設けられており(イ)以下が新たに追加されています。
詳細な説明は割愛しますが、派遣労働者の雇用安定に資する改正がおこなわれています。

(ア)派遣労働者の個人情報の保護が適切になされていること(従来通り)
→実地調査では、個人情報をどのように管理しているか必ず確認があります

(イ)派遣契約が終了した事のみを条件として、雇用が終了する旨の雇用契約条件でないこと

(ウ)派遣先が無いことにより休業させる場合には、労基法の休業手当を支給すること

(エ)安全衛生教育が実施されていること、その他の教育訓練の書類が保存されていること 等

<② キャリア形成支援の義務化>

(ア)派遣労働者に対する教育訓練計画策定の義務化と実施

(イ)派遣労働者に対するキャリアコンサルティング相談窓口の設置と実施

(ア)教育訓練の計画の作成と実施の義務化

良くある質問としては、「どのような内容をおこなうのか」という質問が数多く寄せられていますが、派遣労働者の職務内容に沿った内容で、派遣労働者とのキャリアに資する内容であることが、一定の理由付けがなされていれば、内容に具体的な制限はありません。
また実施の時間数については、無期契約でフルタイムの派遣労働者の場合に、1年ごとに概ね「8時間程度」とされています。※労働安全衛生法にもとづく、雇入れ時の安全衛生教育については、必ず実施する必要があります。

(イ)キャリアコンサルティング相談窓口の設置と実施

今回の改正で新たに追加されたキャリア形成支援ですが、これについて派遣元事業主から、どのような事を、実際に行えば良いのか、良く分からないと質問を受けることが多いです。
筆者はキャリアコンサルタント免許を有しており、実際に数多くの顧問先企業の従業員のキャリアコンサルティングの実施をおこなった経験を有していますが、一言で表現すれば、派遣労働者の入社後のステップアップ視野に入れた、キャリア相談を受けたり、キャリア支援プランを策定したり、派遣労働者の相談に応じたりと多岐にわたります。

この度、平成28年4月にキャリアコンサルタントが国家資格化される事に伴い、有資格者でないといけないのかという点の質問が多く寄せられていますが、有資格者である事は求められていません。ただし、窓口の担当者は、「キャリアコンサルティングについて見識を有する者」であるという要件があり、実務経験又は一定の有資格者であることがある程度、要請されています。
また窓口の担当者は「外部の者」でも良い事、電話等でキャリアコンサルティングをおこなう事も可能であるので、自社内で実施が難しい場合には外部の有資格者に依頼するのが、中小零細の派遣元事業主では、現実的ではないかと思います。
ポイントとしては、窓口の設置は義務であり、有資格者や経験者の担当者が何名いるか等も報告事項となっている点です。

<補足 キャリアコンサルタントの要請と実施について>

クライアント企業様に対して、実施方法等について具体的な支援をおこなっております。

また現在、国の施策として企業内人材育成推進助成金という制度で、養成を事業主がおこなう場合や実際に一定の資格を有するキャリアコンサルタントが実施して、キャリアコンサルティングを実施する場合には、助成を受ける事も可能ですので、派遣法の改正対応時には、当事務所にあわせてご相談ください。

<26業務の廃止と派遣制限期間について>

改正前は、専門的な26業務については、派遣制限期間が無く、派遣を行う事ができましたが、一部の例外を除き、3年を上限として制限期間が設けられる事となりました。この扱いも例外が多く、派遣元事業主が誤解している事が多いのでご注意ください。

なお3年を超えて派遣をおこなう場合には、派遣先事業主の過半数労働組合又は労働者代表の意見を聴いておこなう事が必要ですが、同じ派遣労働者については、同一の部署に3年以上派遣をおこなうことが禁止されていますので、派遣労働者を変更するか、別の部署への派遣をおこなう等の対応が必要となります。

次のケースでは当初より派遣制限期間がありません。この点も誤解されている事が多々あるようです。

システム開発業界に多い、派遣就労は(ア)又は(ウ)という事になりますので、改正後も扱いに変更はありません。大きな影響が想定されるのは、従前は26業種であった事務職等の派遣と言われています。

(ア)派遣元事業主に無期雇用される派遣労働者

(イ)60歳以上の派遣労働者

(ウ)終期が明確な一定のプロジェクトが完了するまでの間に雇用される派遣労働者

(エ)1か月の勤務日数が通常の労働者の半分以下かつ10日以下の派遣労働者

この点の解説については巻末にリンクをしています厚労省のパンフレットのP5ページの図解がわかりやすいのでご覧いただければと思います。

<雇用安定措置の実施>

派遣元事業主が同一の派遣先に1年以上継続して派遣をおこなう場合には、以下の措置をおこなう事が義務付けられています。

(ア)派遣先事業主に直接雇用の申し込みをおこなう

(イ)派遣労働者を派遣元事業主が無期雇用する

(ウ)新たな派遣先の提供

(エ)その他の措置(紹介予定派遣の実施、新たな就業機会が確保されるまでの間の有給の教育訓練等)

●雇用安定措置の対象となる者

①同一の組織単位に継続して3年間派遣される見込みのある者(ア~エのいずれかを義務化)

②同一の組織単位に継続して1年以上3年未満派遣される見込みのある者(イ~エの努力)

③上記の①及び②以外の者で、派遣元事業主に雇用された期間が通算して1年以上の方(イ~エの努力)

①のケースは義務である点にご注意ください。

なお、派遣労働者の直接雇用については、派遣元事業主の直接雇用に対する助成金や、派遣元事業主が無期雇用をおこなったり、正規雇用をおこなう等、様々なケースで、助成金が支給されます。

厚生労働省の派遣法のパンフレットのダウンロード先

<当事務所へのご相談>

当事務所には派遣元事業主の支援チームがあります。派遣事業に精通する社会保険労務士、キャリアコンサルタント、元システムエンジニアで常駐派遣経験を有するスタッフ等によりチームを組んでいます。

派遣の許可申請、派遣事業の事業計画書、運営規程の作成、派遣労働者の直接雇用や、無期転換に使える助成金、キャリアコンサルティングの実施等、総合的な支援に強みを有しています。

派遣事業をおこなっている企業様は是非とも当事務所をご用命ください。

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